当院の手術について
代償性発汗に配慮した手術(LSFG技術)
当院では、この代償性発汗に配慮し両側の手術はせず、まず片側の手術を行っています。
一方、患者様の要求は両側同時に手術し、早く治療を完了したいということがあります。
しかし、両側同時での手術では代償性発汗の程度が強く現れ、その副作用の可能性が著しく高くなります。
同じ交感神経の遮断レベルで手術を行う場合でも、
両側同時手術と
初回片側を行ってから反対側まで6月以上期間をあける二期的手術
を比較すると代償性発汗の重症度に明確な差異があります。
代償性発汗に悩む患者様の多くが初回両側同時手術の患者様です。
当院では、1996年にこの手術が保険で承認されて後、原則的に初回片側手術の方針で診療してまいりました。
片側治療で代償性発汗の部位と程度を観察することにより反対側の手術で代償性発汗を引き起こす神経節の切除を控えるなど代償性発汗の予防の対策を講じることが出来ます。
当院は、このように手術方針を守ってきたことで
本邦ならびに世界においても他施設以上の患者様を担当することが出来ました。
日本の一部の施設では
T4のみあるいはT5のみの切除を推奨する施設がありますが、
重度の代償性発汗の可能性があります。
この切除では、発汗停止効果の満足度が少ないため行っていません。
(1999年に中止。)
片側治療の良い点
1. 片側手術をうけることによって代償性発汗の程度は軽減できます。
2. 片側でも約20%の患者さまで両側の多汗症の改善が得られます。
3. 反対側の手術に進むときに代償性発汗を引き起こす原因となった
交感神経節の切除を控えることが出来ます。(個別化手術が可能)
両側同時の手術において重度の代償性発汗になった場合には
どの部分の交感神経の切除が原因であったのかが判断できなくなって
代償性発汗の治療が困難となります(LSFG技術)。
最小の手術創部
スコープガイドを用いた手術創(18歳女子、術後3日目。)腋窩に2.5_の皮膚切開を一カ所行うだけで、ETSが可能です。
傷跡は残らず、疼痛も軽減されます。
創部が消失するため、ほかの人に知らることがなく精神面でのメリットがあります。
(クリックすれば画像が切り替わります)
★美容上の問題を克服
(傷のあとがケロイドや醜い状態になる場合がありましたが、本術式では著名に改善しました。)
(手術痕が3カ月後の時点で見えなくなったと回答した人は99.8%でした。)
ETSにおいて発汗が止まることが一番大事なことと考えていますが、美容上のメリットもこれに劣らず重要だと考えております。
多くの多汗症の人は、手の汗のことを他人に知られない様に配慮されていたことと思います。
手の汗がとまって1年経過し2年経過し、頭の中から汗のことを忘れてしまったあとで、前胸部の傷跡で手術を受けたことを思い出し、また他の人に知られてしまいます。
術後汗が止まってからも、手術を受けたことが明らかになってはいつまでたっても多汗症から縁が切れません。
個別化した手術(術中交感神経節への電気刺激試験)
当院では、個々の患者様で切除の設定を変えております。
これまで手術の効果判定に電気刺激試験を行っていましたが、
刺激試験の結果と術後の代償性発汗の発現に
一定の関係が見出せます。
これにより、電気刺激試験を行って手のひらの発汗停止の効果を
大きく引き出せると同時に
代償性発汗の予測と軽減が可能となっております。
術中電気刺激試験を行って代償性発汗の治療に役立てることが出来ます。
代償性発汗の取り組みを参照
術中電気刺激試験
手術を確実に行うため交感神経節の各レベルに電気刺激を加え、上肢の毛細血管血流速度を測定し発汗に関係する交感神経の確実な遮断を行っています。
交感神経節への電気刺激と術側の中指皮下毛細血管循環量の変化。
Stimulationののち約10秒経過すると指先の毛細血管における血流量の減少が観察される。
電気刺激により毛細血管の血流量の減少がみられ、上肢へ関係するの交感神経の選別ができる。
(H.Yamamoto et al.Ann Thorac Surg 1999;68:2361-3.より引用)
術中の治療効果判定が可能
充実した装備により交感神経幹内の刺激試験が可能です。
術中に効果判定を行うことにより、治療の失敗が有りません。
多汗症を引き起こす原因の交感神経幹を切断できず、不適切な神経の切除が行われた場合、手の汗は減少しません。手術をうけたにも関わらず手の汗が止まっていないのはとても残念なことです。
このため、術中に効果判定を行うことは多汗症治療を確実に行う上で非常に重要です。
当院では、胸部交感神経遮断術が無効とならないように、他に術中に手掌皮膚温度のモニターも行っています。
これらをモニターしながら、胸部交感神経幹を刺激試験により同定した後、第2から第4胸部交感神経の遮断(現在は主に第3から第5の胸部交感神経)を行うことで、効果判定をしたのち手術を終了しています。
2ミリの内視鏡とスコープガイドを使用
当院のETSでは脇に2.5_ほどの小さな皮膚切開を加え、スコープガイド(B, 外径2.45ミリ)という細い手術器具を用いて胸腔内にアプローチします。
直径2ミリの胸腔鏡(C)により胸腔内を観察したのち、交感神経のレベルをレントゲン撮影し正確に位置を確定します。
通常、交感神経幹が肋骨の三、四、五本目と交差する部分(T3・4・5)の遮断を行います。
左がスコープガイドの内筒、中央2つがスコープガイドの先端、右が2ミリの胸腔鏡の先端
手術時間は平均13分
奇形や解剖学的変異・胸膜肺癒着などがなければ、30-50分で手術は終了します。
麻酔時間もおおむね60分で終了でき、麻酔薬液量の負荷も少なくて済みます。
全身麻酔
ETSは全身麻酔で行われます。
当院の麻酔は経験豊富な麻酔指導医が担当します。
ETSの日帰り手術を行っている他施設の中には麻酔医をおかず、自家麻酔(執刀医が麻酔も管理する)で行っている施設もありますが不適切と考えています。。
★痛みの問題
器具が細小であり、神経損傷の可能性自体が極めて少ないうえに、傷が1カ所だけであるため創部痛は少なくてすみます。
痛みのある平均日数は、1.5日でした。
その他の発生頻度の少ない合併症もありますが、部分遮断術では発生しておりませんので省略します。
★類似表現にはご注意を
小生と同じAutosuture製の2mmの胸腔鏡を使っている施設は他にもありますが、他施設と異なる点は、小生が考案しライセンスを所有している器具は外径が2.45mmであり皮膚切開が2-2.5mmの1カ所で手術が完結できる点です。
他施設で2mmのトロカールを用いて小生と同等の手術と放言している施設があるようですが、その場合の2mmのトロカールというのは外径3.4mmもあり、小生のNTS scope guideの約1.5倍のものです。
この場合、皮膚切開を2mmで行えば裂傷が生じ術後にケロイドや手術瘢痕が発生しやすくなります。
また皮膚切開が何カ所であるかを確認する必要が有ります。
胸壁に2カ所と表現している施設がありますが、この場合片側の手術で2カ所なのか両側の手術で2カ所なのかを確かめておく必要があります。
NTS scope guideでは片側の手術で1カ所、両側の手術で2カ所であり実際に傷は99.8%の人で完全に消失します。外径3.4mmのトロカールでは傷跡が残ります。
NTS scope guideは、小生の関係する特定の施設(KYC,神大、協和病院、兵庫病院、宍粟総合病院、東名病院、熊本中央病院、千葉西病院)ヘしか配給していません。NTS scope guideの配給を希望される場合はご連絡ください。
特化した手術室
(多汗症治療専門施設としての独自設計)
2000年7月に多汗症治療、内視鏡手術の専門施設として新大阪に兼平・山本クリニックの設計の経験を生かし、さらに改良を加えた手術場の設計ができております。
多汗症手術に特化した合理的、かつ機能的な手術場設備が充実しております。
手術室の特徴
顔面・手掌・脇の下の多汗症の治療に対してETSを行う場合には、他の手術とは異なった設備・道具が必要です。
一般の医療施設は様々な疾患の治療に対応するため、その都度手術室内部の準備をする必要があります。
また、一般施設でETSを行う場合には、手術のための体位変換・滅菌した術野の確保・胸腔鏡の仕度はもちろんのこと、術中胸部レントゲン撮影準備から、現像・写真の移送に時間を必要とします。
神戸大学病院では、手術のための体位変換に約3分、滅菌した術野の確保に3分、モニターのセットから胸腔鏡の仕度に約3分、術中胸部レントゲン撮影準備から現像・写真の移送に約8分の時間を必要としました。
この時間の合計は17分となりますが、ETSを全身麻酔で行った場合にはすべて麻酔がかかった状態での行為となります。
まず手術台をはじめとしhardの多くを小生が設計・制作・設置まで行いました。
手術台はETSの体位に術者側でもフットボタンで変更が完了します。
滅菌した術野の確保にも独自設計の滅菌シートの器機を装備しています。
山本クリニックでは、さらに特化した集中設備を用意しております。
術中胸部レントゲン撮影には、手術台の上方にスライドレールを配置し、レントゲンの管球を2門装備しております。
管球位置の調整も管球に手を触れることなく、遠隔操作ないし術者のフットスイッチで行えます。
FCRを用いモニターを手術中に確認できるようになっております。
ETSの処置レベルの確認まで時間は40秒と時間の短縮が可能となっています。
ETSの手術中に、多くの施設で処置レベルの確認がされてないのが現状と思われますが、その理由は術中レントゲン撮影にかかる手間暇の大変なことと、術者のレントゲン被爆が主な原因です。
万が一にもETSで遮断レベルを誤っていた場合には、ホルネル症候群とよばれる、縮瞳や眼裂狭小の症状が合併することがありますが、当クリニックでは治療者の遮断レベルの写真を確認しており、この合併症は(わたしどもが携わった手術では)未だかつて発生しておりません。
このように、ETSに特化した手術室で治療を受けることにより、手術時間短縮と同時に麻酔時間の短縮がはかれ、患者への麻酔薬の投与総量が減少しました。
術後の覚醒と回復が早くなり、日帰り手術が実施出来るようになりました。
ホルネル症候群が皆無
交感神経節は汗だけの役割を果たしているのではなく他の機能もあります。
したがって、ETSでは正確かつ繊細な手術操作が要求されることになります。
切除部位が不適切な場合(T1レベル)には、瞼が垂れ下がるホルネル症候群と呼ばれる副作用がでます。
現在では、映像技術がハイテク化し小型高性能な内視鏡が開発された結果、細くて小さな交感神経節であっても拡大して見ることができるようになり、手術の精度・確実度は格段に向上しました。
当クリニックではホルネル症候群の発生事例はありません。
ホルネル症候群に対しては、手掌多汗症の治療では文献上1000分の2の危険率が報告されています。
これについては、術前・術中の対策として有効なものがないため、当科では術中ビデオを記録し保管しており、万一ホルネル症候群を発症した場合には、第一胸部交感神経の損傷の有無について保管ビデオの開示に応じます。
第一胸部交感神経を遮断していないことを確認頂いた場合には、ホルネル症候群についてはご容赦頂く他ないと考えています。
現在まで8130症例を治療いたしましたが、遮断部位の誤認はなくホルネル症候群の発生はありません。
これまでの成果
手掌多汗症の治療に関してこれまでの成果として以下のものがあります。
1998年以前において、デジタル式軟性鏡と自らが考案したスコープガイドによる、胸部交感神経遮断術を完成しました。
片側に6mmのみの皮膚切開を1カ所加えるだけで治療が可能となり、この時点で欧米を通じて最小の皮膚切開の治療を実現しました。
本術式では、胸壁のいかなる部位からでも多汗症の治療が可能であり、背部や下位肋間からの手術が可能となり、皮膚切開の部位に関して患者自身の希望を取り入れることが実現できました。
さらに、この方法を発展させ、左胸壁から両側の胸部交感神経遮断術を完成させ、本術式では両側の治療に左右1カ所づつ6mmの皮膚切開を必要としていましたが、左側に6mmの皮膚切開で済むようになり、右は全く傷つかないで右側の治療が可能となりました。
1997年以降は多汗症術後と無効例に関して術中効果判定の方法に取り組み、1999年6月以降胸部交感神経遮断術後無効例は消失しました。
初期無効例は無くなり、全例に効果が得られる様になり、さらに、これにより胸部交感神経遮断の部位がより明確となり遮断量が縮小できるようになりました。
万が一、再発した場合は2回目以降は開胸術あるいは1回目より複雑な手技が必要であり、患者のtraumaも増加していましたが、本術式では手掌多汗症の手術後に再発してきた場合でも初回同様に治療が極めて容易となりました。
1998年になり NTS scope guideを開発し、基礎経験を積み重ね、2mmの皮膚切開一ヶ所で行うneedle scopic surgeryよる胸部交感神経遮断術を開発、1998年9月に臨床応用し現在に至ります。
手術器具の操作性が良く、手術時間も平均約60分(術中レントゲン撮影を含む)と極めて短縮しました。
この術式では、傷は約1週間で治癒したのちは創部が消えてしまうなど、画期的な手術方法であり、傷が残らないという美容上の問題だけでなく、術後の痛みやしびれなどの神経症状もほとんど解決しました。
本術式では身体に加えるdamageが極めて少なくなり、全身麻酔であっても日帰り手術が実現できました。
一般に昼に来院し手術の後、独歩帰宅して夕食は自宅で可能となりました。
2023年5月までに15000例が本術式を受けました。
2006年10月11日 21:37:11 掲載開始
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